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大阪高等裁判所 昭和36年(ラ)288号 決定

抗告人 木村夏子 外一名

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣旨及び理由は別紙のとおりである。

所論は要するに本件競売手続開始決定表示の債権の元本額は金五〇万円とあるも、真実の金額は三四万〇、二五〇円にすぎないことを異議申立の理由とするものである。而して抵当権に基く競売申立債権額の過大であることを以て競売手続開始決定に対する異議の理由となし得るか否かに付ての従来の裁判例を見ると、之を否定するものが多数を占めている。確かに右の異議の手続において被担保債権額が確定されるのでないことは謂うまでもないところであり、又僅かな債権額の相違を理由として競売手続開始決定に対する異議申立を許すことは、たとえこの異議申立に競売手続停止の効力は無いとしても、矢張り之がため事実上競売手続の迅速な進行を阻害する結果を生ずることを免れない。従つて競売申立債権額の相違のごときは、原則として異議申立の理由とすることはできず、之に付ては判決手続による債権額確定の訴、或は請求に関する異議の訴、若しくは配当異議の手続によるを要するものと解すべきである。

しかしながら、数筆の不動産が共同担保となつていて、而もすでに残債務額が著しく減少しているため、右不動産の内一部のものを競売して債務を完済する見込が十分であるに拘らず、尚多額の債権が残存するものとして共同担保の不動産全部につき競売手続開始決定があつたような場合には、競売法に準用あるものと解せられる民事訴訟法第六七五条に基いて、債務者或は抵当権設定者においては右債務額の相違を理由として速やかに右一部の不動産の競売手続の不許の裁判を受けるに付、重大な利益を有するものと見なければならない。従つてこのような特別の事由のある場合には例外として、申立債権額の相違を以て異議申立の理由とすることを許すべきものと解する。

ところで本件競売事件記録によると、競売手続開始決定表示の不動産の明細及び之に付鑑定人中田初治郎の評価額は夫々別紙目録記載のとおりであり、又右記録中の登記簿謄本によると、右不動産の内(一)の宅地に付ては、先順位抵当権者岡本判治郎の元金七二万円の債権(二)の土地に付ては同じく先順位者岡本判治郎の右(一)の債権と別個の元金六五万円、同じく福田昌一の元金二〇万円、同じく三和産業株式会社の元金三〇万円の各債権(三)の建物に付ては、先順位者岡本判治郎の別個の元金四五万円の債権のため夫々抵当権若しくは根抵当権設定登記が経由せられており、更に国税その他の徴税の問題並に前示鑑定人の評価額により必ず競落されるとも限らないことを考え併せると、本件については、抗告人等主張の程度の債権額の相違の有無の問題は、之を以て前段説示の異議申立の理由となすことを許すべき例外的の事由に該当するものと認定するに足りないから、抗告人等の主張は採用できない。

その他記録を精査するも、原決定には何等違法の廉がないから、本件抗告を理由なきものと認め、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 加納実 裁判官 沢井種雄 裁判官 加藤孝之)

抗告の趣旨および理由

抗告の趣旨

一、京都地方裁判所舞鶴支部昭和三六年(モ)第四〇号不動産競売手続開始決定異議事件について同裁判所がなしたる原決定

本件異議申立を却下する。

との決定を取消すとの御裁判あらんことを求めます。

抗告の理由

一、しかしながら抗告人等としては前記決定理由は承服出来ない次第であります。

(一) 被抗告人の答弁理由として乙第一号証より第四号証及び川見馨の証言のみを採用して抗告人等の主張並に証拠申出証拠の認否をもなさしめず決定せられたものである。

(二) 被抗告人提出の乙第三、四号証はそれは債務者木村武雄と被抗告人との間に於ける契約であつて根抵当権設定登記を受けたこと並に被抗告人が設定額の金五拾万円也を貸与するから金五拾万円也の証書を書けと云ふたが為めに被抗告人等の言を真実と債務者が信じて作成し交付した証拠のみで其の後に於ける金銭の授受がはたして契約の通り債権元本極度額の通り借用証の通り金五拾万円也であるか何程であつたかどうかが問題であつて契約をした又根抵当権設定登記を受けても其の内容として契約金高が完全に債務者に貸与交付せられて居らなければ此契約債権の請求権利は発生せないものであると信じる。若し債権者が仮りに内容は抵当権設定登記金額が存在して居らないにかかわらず強引に抵当権設定登記債権其侭手残証書等を以て其担保物件である不動産に対し不動産競売の申立をいたし正式書類完備せる場合不動産競売開始決定せられ競売手続きを断行せられても不動産所有者又は債務者が資力なく之れに対し対抗し得なかつたとするならば不動産所有者債務者は回復し得べからざる多大の損害を蒙ることとなるのと同じく本件も根抵当権設定債権の有無に依つて請求し得る債権額が限定せられて始めて其限度によつて執行すべきが当然で只抵当権設定登記面並に証書面金額のみで必ずしも請求し得る債権額とは限らないものと信じるのであります。故に本件も抵当権設定登記面並に証書面金額も共に金五拾万円也であるけれども事実上の貸借金額は昭和三十六年二月二日に金拾五万円同月二十四日に金拾九万弐百五拾円也の合計金三十四万弐百五拾円也であつて其余の金額は請求し執行し得ないものである筈である。然るに被抗告人の本件の請求債権額は抵当権設定登記額面並に証書額面其侭の債権額金五十万円也で請求執行すると言ふことは被抗告人としては幸に債務者抵当権設定者等より異議故障がなければ糊塗し得るものとして表面上真正に成立せる書類として抵当物件に対して不動産競売申立手続きをなしたので裁判所として其内容が判明せないので該不動産競売申立は正当なりとして決定せられたが之れに対し抗告人等は異議の申立をいたしたけれども前記記載の通り債権額の確認は確認訴でなすべきで本件異議申立の理由なしとして決定せられ其侭本不動産競売手続を続行断行せらるる時は抗告人等は前記内容事実であるにもかかわらず第三者に低価格で競落処分せられた時は回復し得ない多大の損害を蒙ることとなるから抗告人等はあくまでも実在債権額が執行債権請求額で第一条件となるべきであると信じるもので本件被抗告人側の一方的証拠糊塗的証言のみによつてなされた決定は抗告人等としては前記の通りでありますので不服でありますから証拠の申出並に証拠を提出し本件異議申立は正当であることを立証しあくまで争ふものであります。

一、不動産競売開始決定及び競落許可の決定に対する異議は競落の手続きに関する理由に基いて之れをするのが通則であるけれども元来競売は民事訴訟法の強制執行と異り執行力ある債務名義を必要としないものであるから裁判所は競売に関する申立がある場合は其の申立は実体上の理由あるか否かを一応審査する必要があり理由があると見へる場合に限り之れを許可することを要するのであるから競売の申立が実体上理由があるか否かも裁判所の判断を受けるべきものであると同時に当事者はその異議の申立並に抗告の申立に於て手続上の理由と実体上の理由とを併せて主張することが出来る。民事訴訟法の強制執行と異なる点は一方は強制執行に先立ち執行力ある債務名義を必要とするが競売法による競売はこれを必要としないのと民事訴訟法の規定をそつくりそのまま競売に適用するのでなくその性質の許す限りこれを準用するにすぎないことから生れる結果であつて民事訴訟法の強制執行と競売法の競売との間に前示の差異の生ずるのはやむを得ない結論であるから競売の開始に関する異議並に抗告は手続上及び実体上の理由に基いてこれができることになつているので本件異議却下の決定は失当として取消された上妥当の決定を求める次第であります。

不動産目録

(一) 舞鶴市字北田辺小字三の丸拾五番地の壱

一 宅地 九拾九坪参合壱勺

此評価格金百九拾八万六千円也

右所有者 木村夏子

(二) 舞鶴市字北田辺小字三の丸拾五番地の弐

一 宅地 五拾坪四合

此評価格金百万八千円也

右所有者 木村夏子

(三) 舞鶴市字北田辺小字三の丸拾五番地

家屋番号 同字壱〇六番

一 木造瓦葺平家建居宅

建坪 弐拾参坪弐合五勺

右附属

木造瓦葺平家建 浴場

建坪 参坪五合弐勺

此評価格金四拾五万五千円也

右所有者 木村隆雄

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